この度、弊画廊の所属作家ジョーン・ジョナスの『第34回(2018)京都賞 思想・芸術部門』の受賞が決まりましたのでここにご報告いたします。京都賞は、稲盛和夫氏(現京セラ株式会社名誉会長)が1984年に設立した公益財団法人稲盛財団が創設した国際賞で、思想・芸術部門は「音楽」「美術(絵画・彫刻・工芸・建築・写真・デザイン等)」「映画・演劇」「思想・倫理」を授賞対象としており、美術分野では4年に1度受賞者を選出しています。

ジョーン・ジョナスは1936年にニューヨークに生まれて1960年代に表現活動を開始して以来、約60年間に渡りパフォーマンス・アートの可能性を追求し続けている女性アーティストです。従来のパフォーマンス・アートに、ヴィデオを代表とするニューメディアの技術と理論を融合させたことで新しい表現形式を展開させ、現代アートの中で身体表現が持つ可能性を大きく広げました。前衛ダンスやフルクサスそしてミニマルアートが隆盛した60年代後半のアメリカで芸術表現に取り組みはじめたジョナスは、訪日中にポータブルヴィデオカメラを購入した事を契機に、1970年代前半から本格的にパフォーマンス・アートとニューメディアとの融合を実践していきます。またこの旅行中に観劇した能や狂言からは、持道具の果たす象徴的な役割に大きな影響を受けました。

ジョナス作品の中軸は、自身のパフォーマンス記録やロケーション撮影から編集した映像作品を、特殊な形状のスクリーンやドローイングで構成される、ジオラマ仕立ての劇場型の空間の中で上映するという映像インスタレーションです。作品は舞台本番を迎えて完成するだけではなく、その舞台の記録映像やロケで別撮りした素材など、複数の物語を持った映像同士が組み合わさりながら、大きなひとつのインスタレーションとして展開を繰り返していきます。舞台上に自身が登場する映像を投射し、その中で時にはライブパフォーマンスも行い、更に音響効果や装飾による複雑な空間演出を重ね、その空間の一部として鑑賞者をよびこむ事で、ひとつの作品を通じて同じ空間に複数の時間軸と客体が同居出来るようになります。また、旅の体験や伝承を着想の起点に制作される映像作品や、数台のスクリーンによる展示形態も多く、複数の物語や時の流れに横断的に言及する制作の構造は、ジョナス作品に共通する要素です。

このようにして多層的な世界への接点を持ち、美術史あるいは歴史全体に対して強度のある超越的なアプローチをおこなうジョナスの作品は、パフォーマンス・アートが一過性の表現として記録だけに完結するものでもなく、また単純に伝統的な価値観に反したアバンギャルドな表現行為にも留まらないものであることを実証していきました。身体表現を現代アートや表象の歴史に明確に位置づけ、その表現をニューメディアと融合させた事によってパフォーマンス・アートの可能性を幅広く展開させたジョナスの制作活動は、後進の世代にも大きな影響を与えています。近年では2015年のベネチア・ビエンナーレで米国パビリオン代表展示を努め、2018年にはテート・モダン美術館で大回顧展を開催するなど、現在もなお精力的に活動を続けています。半世紀以上に渡り現代アート界を牽引し続け、常に新しい表現に取り組み続けている事などが評価され、この度の受賞に至りました。

この受賞を記念して、京都国際会館におきまして2018年11月10日(土)に授賞式、11日(日)に他受賞者と共に記念講演、そして14日(水)にはロームシアター京都にてジョナスによる記念ワークショップが催されます。 (※要予約)

ジョーン・ジョナス Joan Jonas
1936年NY生まれ、同地在住。60-70年代にリチャード・セラやロバート・スミッソンらと共に実験的な活動を行い、女性パフォーマー/ヴィデオ・アーティストの先駆者として知られる。表現方法は多岐に渡り、パフォーマンス中のドローイング制作、スタジオワーク、パフォーマンスを記録した映像作品、写真作品など、幅広く制作を行う。作品は神話や伝承あるいは詩などから着想され、独自の視覚言語を織り上げている。ドイツのカッセルで5年おきに開催される国際展ドクメンタに過去6回参加。近年の主な展覧会としては、2012年に現代美術センターCCA北九州で滞在制作をおこなった他、2013年PERFORMA13、2014年台北ビエンナーレ、2015年ベネチアビエンナーレ米国パビリオン代表展示、2018年テート・モダン美術館での回顧展などが挙げられる。本年、第34回(2018)京都賞を受賞した。